契約書の2020年民法(債権法)改正対応のポイント!中小企業もひな形の見直しを

契約書を提示する営業

民法改正に伴って契約書の「ひな形変更」が必要

2020年4月1日に施行される民法改正とはどういったことなのか、簡単に確認しましょう。

そもそも民法改正とは

民法は、物に対する「所有権」などの物権、民間人同士の契約関係や親族相続関係などについて定めている法律です。その中で企業間取引にとって重要な売買や賃貸借、請負や委任などの「契約」や債権、時効などについても規定されています。

従来の民法が制定されたのは明治時代であり、内容が現代取引社会には適合しなくなっていました。そこで約120年ぶりに民法の大規模な改正作業が進められ、債権法の分野も大きく変更されます。

債権法が変わると企業間取引に多大な影響が及びます。各企業が現在取引関係を定めている「契約書」の内容も、変更する必要が生じてくるでしょう。以下で契約書を変更しないとどういった問題があるのか、みてみましょう。

リスクを予防できなくなる

御社で利用されている契約書のひな形やテンプレート。現状では法律に適合した内容となっていても、民法改正によって適合しなくなる可能性があります。改正内容に応じた条項に変更しておかないと、充分にリスク予防しにくくなるでしょう。

契約書が無効になってしまう可能性もある

改正内容に応じた条項に変更しておかないと、契約条項が意味をなさず無効になってしまうおそれもあります。
せっかく契約書があってもリスクを予防できなかったり無効になったりしては何の意味もありません。できれば2020年4月までに、間に合わなくても可能な限り早く、御社で利用されている契約書を全体的に見直して「改正民法に適合したものとなっているか」チェックする必要があります。以下ではどういった点に着目すれば良いのか、ポイントをご紹介します。

民法改正により契約書を変更すべきポイント

民法改正により、契約書を変更すべきポイントとしては以下のようなことがあります。

  • 瑕疵担保責任がなくなる
  • 契約不適合責任へ対応する方法
  • 無催告解除に対応した条項を整える
  • 債権の譲渡制限に関する対応
  • 連帯保証人を定める場合「極度額」を決めなければならない
  • 公正証書による意思確認が必要なケースがある
  • 法定利率を前提とした規定の変更
  • 時効の完成猶予についての規定の創設

瑕疵担保責任がなくなる

従来の民法には「瑕疵担保責任」がありました。これは、契約の目的物に隠れた瑕疵(傷)がある場合の売主の無過失責任です。しかし改正民法では瑕疵担保責任がなくなり、代わりに「契約不適合責任」が新設されます。
従来契約書に「瑕疵担保責任」についての規定を設けている場合、その規定をなくして「契約不適合責任」についての規定に変更する必要があります。

契約不適合責任へ対応する方法

契約不適合責任とは、目的物が「契約の内容」に適合していない場合に買主が履行の追完や代金減額請求、解除や損害賠償請求等をできる責任です。従来の瑕疵担保責任とは異なり、目的物の欠陥が「隠れている」かどうかは問題になりません。また瑕疵担保責任では売主の過失は不要でしたが、契約不適合責任では売主が無過失の場合、基本的に「損害賠償請求」できません。損害賠償義務の範囲は瑕疵担保責任より契約不適合責任の方が広がります。
瑕疵担保責任と契約不適合責任にはさまざまな違いがあるので、契約書においても「契約不適合責任」を前提として以下のように変更すると良いでしょう。

契約内容を明確化する

契約不適合責任が発生するかどうかは、目的物が「契約の内容」に適合するかどうかで異なります。契約内容があいまいになっていると責任が発生する稼働かが不明確になってしまうので、これまで以上に「契約の内容」の明確化を意識する必要があるでしょう。たとえば目的物の種類や品質、数量などを示して明示しましょう。

履行の追完方法を定める

契約不適合責任では目的物が契約内容に適合しない場合、買主は売主へ「履行の追完」を求めることができます。履行の追完とは目的物の修理や代替物の引き渡し、不足分の追加納付などを意味します。
改正民法では、売主が追完する際に「買主が指定した方法とは異なる方法」で追完することもできることになっています(民法562条1項ただし書き)。
しかし買主としては希望と異なる方法で追完されると困るでしょう。そういった事態を防ぐためには、契約書に「買主の指定した追完方法に従う」などと書き入れておく必要があります。

追完請求なしに代金減額請求権を行使できるようにする

改正民法では目的物が契約内容に適合しない場合、買主は売主へ代金の減額を求められることになっています。ただしそのためには、事前に「履行の追完請求」をしなければならないのが原則です。
買主としては、履行の追完をせずいきなり代金減額請求したいケースもあるでしょう。たとえば不備が軽微なとき、不備については自分で補修するので代金だけ減額してもらえれば良いと考える可能性もあります。そういった状況に備えるには、契約書に「追完請求なしに代金減額請求できる」などと記載しておく必要があります。

損害賠償請求できる範囲を明確化する

従来の「瑕疵担保責任」では、損害賠償の範囲は「信頼利益」に限られていました。信頼利益とは「目的物に瑕疵がないと信頼したことによる損害」であり、その範囲は限定されます。
これに対し契約不適合責任では損害賠償の範囲が「履行利益」にまで広がります。履行利益とは「契約がきちんと履行されたことを前提とする損害」です。たとえば不動産を購入する際、入り口のドアの「鍵」を付け替えるために新しいものを購入したらそれは信頼利益の損害となります。一方「不動産の転売による利益を得られなくなったこと」は履行利益の損害です。
このように契約不適合責任では損害賠償の範囲が広がるので、契約書の段階でも、どこまでの損害を賠償すべきかある程度明確にしておいた方が安心です。

無催告解除に対応した条項を整える

改正民法では、契約の「無催告解除」をできる場面が増えます。無催告解除とは、相手方に通知せずに一方的に契約を解除することです。
従来の民法で無催告解除が認められたのは、以下の2つのケースです。

  • 目的物の引渡しが全面的に不可能
  • 期限までに目的物が引き渡されなければ契約の意味がなくなるが、期限までの引き渡しは不可能

改正民法では上記2つに足して以下のようなケースでも無催告解除が可能となります。

  • 売主が全部の引渡しを明確に拒絶している
  • 引渡しが一部不可能だが、残部のみでは契約の意味がなくなる
  • 売主が引渡しを一部明確に拒絶しており、残部のみでは契約の意味がなくなる
  • 催告しても引渡しが行われる見込みがない

売主側が買主側の無催告解除を制限したければ、上記のようなケースにおける無催告解除を制限する条項を入れる必要があります。また買主側の場合、従来の契約書の無催告解除条項に①②しか入っていない可能性が高いので、法律に適合した内容とするために③~⑥についても確認的に足しておくのが良いでしょう。

債権の譲渡制限に関する対応

債権譲渡契約においても改正民法へ適応する必要があります。
従来、債権に「譲渡禁止特約」がついていれば、債権者が勝手に譲渡しても債権譲渡には効果が認められませんでした。しかし改正民法では譲渡禁止特約のついた債権の譲渡も原則として有効になります。

債務者の立場としては、なるべく債権の譲渡を避けたいケースもあるでしょう。そういった場合、「譲渡禁止特約に反する債権譲渡が行われたときには無催告で解除できる特約」をつけたり「違約金を発生させる」内容の条項を入れておいたりすると効果的です。

連帯保証人を定める場合「極度額」を決めなければならない

貸金や賃貸借契約、取引基本契約を締結する際などには「連帯保証人」をつけるケースが多々あります。改正民法では連帯保証人についての取扱いが大きく変わっているので要注意です。
まず連帯保証人が「根保証」する場合「極度額」を定める必要があると規定されました。根保証とは「主債務を特定せずに全体的に保証すること」です。たとえば賃貸借契約の保証、取引基本契約の保証などが該当します。根保証では「具体的に〇〇円」の債務ではなく「この契約によって発生する一切の債務」を保証するので、連帯保証人が実際にいくらを保証しなければならないか予想がつきにくいリスクがあります。
そこで改正民法は根保証の保証人に不測の損害が発生しないように、根保証の連帯保証人をつけるときには「極度額」を定めないといけないと規定しています。極度額とは「保証の限度額」です。契約によって発生する一切の不履行を保証するとしても「限度額は〇〇円」などと契約段階ではっきり規定しておかないと無効になってしまいます。
従来の保証人に関する契約書には「極度額」を定めていないのが通常なので、多くのケースで条項の変更が必要になるでしょう。

公正証書による意思確認が必要なケースがある

事業用の貸金等の契約で連帯保証人をつける場合、基本的に連帯保証人の「公正証書による意思確認」が必要になります。事前に公正証書で意思確認しておかないと連帯保証人として署名押印してもらっても無効になる可能性があるので注意が必要です。

法定利率を前提とした規定の変更

従来、「法定利率」を前提として取引していた企業も注意が必要です。
法定利率とは、民法が予定する利率で、貸金や遅延損害金などの計算の際に適用されます。たとえばお金を貸し付けるとき、当事者間で取り決めをしていなければ法定利率が適用されます。従来の民事法定利率は年5%、商事債権の生じ法定利率は年6%でした。
ところが法改正後は法定利率が3年間は年3%とされ、その後は経済情勢に応じて3年ごとに変動します。もしも2020年4月以降に年3%より高い(あるいは低い)利率を適用したいなら、当事者間で話し合って利率を取り決めて契約書に明示する必要があります。また3年ごとの利率変動を避けたい場合には、契約書に固定の利率を定めておきましょう。

時効の完成猶予についての規定の創設

民法改正により「時効」についての規定も変更されます。まず時効期間そのものが変わり、これまでは1年、2年、3年、5年などとばらばらの時効期間が定められていましたが、基本的に「5年」に統一されます。
またそれに合わせて「合意によって一定期間、時効完成猶予できる制度」がもうけられました。時効が成立しそうなときにも当事者間で合意ができたなら、書面や電磁的な記録(データ)を作成した段階で時効の成立が延長されます。

ただ、紛争が現実化してから当事者同士が話し合って時効の猶予を協議し書面を作成するのは困難ですから、契約段階で時効完成猶予の協議について定めておくべきです。
たとえば以下のような内容です。

  • 「相手方から時効の完成猶予の協議を求められれば、基本的に応じなければならない」
  • 「時効の完成猶予の協議を行い、相手方からの要望がある場合には、書面または電磁的記録により合意内容を明らかにしなければならない」

契約書の改訂は弁護士へ相談

以上のように、今回の民法改正により中小企業もさまざまな影響を受けます。どの企業も契約書の内容を見直す必要があるでしょうし、場合によっては既存の契約関係も見直すべきです。従来の契約書ひな形をそのまま利用し続けると、大きな不利益を受けることになりかねません。

しかし今回の民法改正内容は複雑で多岐にわたるので、素人にはわかりづらいうえ全容を把握するのは困難です。適切に対応するには弁護士によるアドバイスとサポートが必須といえるでしょう。

今まで顧問弁護士を入れていなかった企業も、これを機に企業法務に詳しい弁護士と顧問契約を締結し、法務面の強化に取り組まれてはいかがでしょうか?顧問弁護士がいれば各種契約書の作成やチェック、従業員との関係や労務管理の対応、知的財産の活用などさまざまなサポートを受けられます。御社に費用以上の利益をもたらす心強い味方となるでしょう。

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