事業再生ADRという手続きも知っておこう

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事業再生ADRってあまり聞き慣れないけど…

中立機関の仲介で事業再生に関わる紛争を解決する制度です

事業再生ADRとは、事業再生に関する紛争を、中立な第三者機関の仲介によって解決しようとする手続きのこと。ADRは「Alternative Dispute Resolution =裁判外紛争解決手続き」の略称です。事業再生ADRでは、訴訟や法的手続きのように裁判所の強制力を発動せず、あくまでも当事者間の話し合いによって和解へと導きます。

仲介の対象となるのは主に金融機関

事業再生ADRの目的は、会社更生法や民事再生法を適用して再生会社の事業価値が下がってしまうことを避けつつ、金融機関に対して債務の猶予・減額を求めて事業再建の後押しをすること。よって、再生会社が事業再生ADRを申し立てた場合、第三者機関が仲介の対象とするのは主に金融機関となります。

法務大臣による認定を受けた事業者が仲介を務めます

事業再生ADR事業者は、法務大臣から「認証紛争解決事業者」としての認定を受け、中立的な第三者機関として、仲介を務めます。2016年3月の段階では、「事業再生実務家協会」のみが認定を受けています。

なぜ事業再生ADRという制度が作られたの?

事業再生の過程で商取引を維持するための新しい仕組み

通常、過剰債務に陥った企業は、金融機関に融資の弁済の猶予や減額・免除を求め、再建を図ります。一方、金融機関にとっては、もし融資額の大きい企業が倒産すると債権の回収が困難となるリスクがあるので、メインバンクが主導となって事業再生の任意整理(私的整理)を行うことが一般的でした。

しかし、債権放棄は金融機関にとっては非常に不利益となるため、任意整理の交渉を行う際になかなか決着がつかず、任意整理が不可能になったり、紛争に発展するケースが多々あります。こうした際には、会社更生や民事再生などの法的整理が採用されるのが一般的です。

法的整理で取引先への支払いを停止すると、その後のビジネス関係が悪化…

一方、法的整理では、金融機関に対しても債務整理が強制力を持って行われます。しかし法的整理のケースでも、事業再建を目指す企業にとってのデメリットがありました。それは、取引先企業への支払いの一部も停止せざるを得なくなってしまうことです。

結果として、過剰債務の整理が成功したとしても、取引先との関係が悪化してビジネスが成り立たなくなり、事業の再建が不可能になってしまいます。

解決策として2007年から始まった新しい制度が事業再生ADR!

こういった問題を解決するため、2007年に施行されたADR法により、新たに設けられた制度が事業再生ADRなのです。

経済産業省のレポートによると、2015年3月31日時点で50件の利用申請があり、42件が受理されています。このうち約7割にあたる30件で事業再生計画案に対して債権者全員が合意しています(約4割にあたる16件が上場企業による利用)。

現状では、事業再生ADRは経営規模が比較的大きい企業で利用される傾向があります。対して、主に中小企業を対象とし、同様の役割を果たす支援機関に「中小企業再生支援協議会」があり、弁護士などで構成する第三者的チームが再生計画の立案や金融機関との交渉を仲介しています。

そのほかに事業再生ADRのメリットはあるの?

つなぎ融資が円滑になり、手続き中の資金繰りが安定します

事業再生ADRには、つなぎ融資が円滑になるというメリットがあります。これは、手続き中の一時的な資金繰り目的の融資が、仮に法的整理に移行した場合でもほかの債務と比べて優先的に弁済されるので、融資を受けやすくなるためです。

債権者は債権を無税消却できるというメリットも

任意整理では、金融機関が債権放棄をする際、税務署による判断を仰ぎ、債権放棄が損金として計算できるかどうかの判断がなされます。しかし事業再生ADRによって債権放棄がなされた場合、自動的に税務上の損金算入が認められ、債権の無税消却が可能となります。

純粋な任意整理
特徴 当事者間での解決
メリット 手続きの柔軟性、迅速性、商取引の継続
デメリット 手続きの不安定性
法的整理(民事再生・会社更生)
特徴 裁判所による強制力
メリット 手続きの安定性、公平性
デメリット 事業価値が低下

↓メリットの融合

事業再生ADR
特徴 第三者機関が仲介
メリット 柔軟性、迅速性、公平性
デメリット 商取引の継続

経済産業省の資料参考:http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/adr/gaiyo.pdf

事業再生ADR手続きの流れは

あくまで任意整理の一種なので、全債権者の同意が必要です

では、手続き申請から再生計画実行までの流れをみていきましょう。まず重要なポイントは、ADR事業者は裁判所のような公的機関ではないので、任意整理の一種に位置づけられるという点です。したがって、債権者会議ですべての債権者の同意を得られなければ、事業再生計画は実行に移されません。

ADR事業者とともに再生計画を作成、専門家の事前審査も

債務者がADR事業者に手続きの申し立てをすると、債務者はADR事業者とともに事業再生案を作成し、専門家による有料(50万円)の事前審査を受けることになります。事前審査をパスするには、いくつかのポイントを抑える必要があります。

事前審査のポイントは?

  1. 破産手続きを超える弁済を提供できること
  2. 事業再生計画案の実行可能性があること
  3. 債権者の合意を得る見込みがあること

以上が認められれば、事前審査を通過します。あえて事業再生ADRを利用する理由が存在するかどうか、実際に再生計画を実現できるのかといった点が審査されるのです。

全債権者の同意が得られれば、再生計画は実行へ

手続きの開始後、債権者に対して債務支払いの一時停止の通知をした後、債権者会議を行います。すべての債権者から事業再生計画案への同意を得ることができれば、計画は実行に移され、再生計画に従った債務整理が行われます。

法的再生手続きへ移行する可能性もあります

ほかの任意整理による再生のケースと同様、債権者である金融機関の同意を得られなければ、当然、法的整理が適用され、裁判所が介入し強制力を持った債務整理が行われます。

第三者機関による仲介を受ける場合も、まずは弁護士へ相談

状況に応じた最適な方法のアドバイスを受けよう!

このように第三者機関による仲介を受け、経営再建を図ろうとする場合も、まずは信頼できる弁護士に相談することが基本です。企業再建に詳しい専門の弁護士であれば、あらゆる再建方法の中から最適なプランを提示し、費用と時間を抑えつつ最適なソリューションを見つけ出してくれることでしょう。

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