法改正で強力になった意匠権〜経営者が知って置きたい知的財産権

デザイン

法改正により、より幅広く保護されるように

ビジネスにおける旧意匠権の抜け道

意匠法は、1998年に法改正され新しい意匠権として生まれ変わりました。改正前には、「物品」は独立した製品として流通するものとされていたため、「独立した製品ではない」、流通しない物品の「部分」についての意匠は、意匠法の保護対象にはなりませんでした。そのため、独立したデザインを複数組み合わせて物品を形づくる場合も、独立したデザイン部分は物品とされず、全体でのみ「ひとつの意匠」とみなされ、物品全体に対しての意匠権しか取得できない状況でした。

つまり、ひとつの独立したデザイン部分が模倣されていても、意匠全体としての模倣でなければ、意匠権の保護の範囲外に…。極端な例だと、いくつかの企業が使用するパーツ(複数の物品)をそれぞれに真似て一台に組み上げた車両などは、意匠法上では保護の対象外だったことになります。こうした「抜け道」が存在したため、法改正前の意匠権は、ビジネスの場面では少々使いにくい権利だったのです。

現状に沿った新しい意匠権のカタチ

そこで98年の制度改正では、上記のような「抜け道」がある状態を踏まえ、意匠を構成する「物品」の定義に、「物品の部分」が含まれることを認めました。結果、物品の「一部分」であっても、形状などの独創性が高く特徴的な創作であるものは「部分意匠」として保護されることに。技術が進化し、製品の構造が複雑化・細分化されている現代では、重要な改正となったのです。

制度改正後に認められるようになった意匠制度

新たな制度が追加されてより使える権利に

新たに改正された意匠法では、①「組物の意匠制度」、②「部分意匠制度」、③「関連意匠制度」などが追加されました。どれもビジネスにおいては重要な制度なので、以下でそれぞれの制度について、詳しく解説していきましょう。

①組物の意匠制度

組物の意匠とは複数の品物を組み合せて、全体を構成する物品のデザインを指します。つまり、ソファーセットやテーブルセットのように応接家具として全体のバランス、統一感を考えてデザインされたものは、組物の意匠として扱われます。従来は13品目に限定されていましたが、改正後は56種類に増加し、たとえばゴルフクラブセットやコーヒーセットなどにも組物の意匠が認められるようになりました。

②部分意匠制度

部分意匠とは、物品全体に対しての「部分(パーツ)」を意味します。一例として、時計の針に特徴があるデザインだと、時計全体としてだけでなく、その針の部分についても部分意匠を受けることが可能です。つまり部分意匠は、全体を構成する一部分ではあるものの、特徴的で独創的なデザインを持っている「部分」に対して発生する意匠権です。改正以前は「意匠全体を模倣すると違法だけど、部分ならばOK!」といった認識での盗用が黙認状態にあったことから、「部分模倣もまた模倣である」との考え方をもとに、認められるようになりました。

③関連意匠制度

関連意匠制度とは、製品化するための最終的なデザインを決める準備段階で、いくつかのバリエーションのデザインが作成された場合に、それぞれのデザインについても意匠権で保護することができる制度です。つまり「最終的なデザイン=本意匠」だけでなく、「本意匠のバリエーション=関連意匠」についても保護されるため、その保護範囲が広くなります。ただしバリエーションを認めるとはいえ、本意匠とまったく似ていないデザインについては認められません。また、本意匠、関連意匠それぞれについても、新しさがある(新規性)、創作性が高く簡単にデザインできるものではない(創作非容易性)などの登録要件を満たす必要があり、本意匠の意匠公報が発行されるまでに関連意匠を出願することも条件となります。

意匠権に定められた独特な制度を知っておこう

動的意匠と秘密意匠制度とは?

製品のなかには、たとえば冷蔵庫のように扉が開いたり、人型から飛行機に変形するおもちゃなど、形状や模様が変化するように設計されているものがあります。その変化に合わせたデザインも考えられていますが、変化する前後の形状ひとつひとつを別個に登録するのは手間がかかるため、動きをともなう製品に関しては「動的意匠」として登録することが認められています

また、デザインは目に見えるものであるため、模倣されやすい性質を持ちます。ところが意匠登録がされると、意匠広報に掲載され、一般に公開されることとなります。そのため、最初の創作者のデザインを意匠権にかからない程度に真似た、盗用した意匠であふれる可能性も否定できません。そんな事態を防ぐため、意匠の登録日から3年以内の期間については、意匠を公表せず秘密にしておける「秘密意匠制度」が設けられています。この制度によって、実際に製品を販売するまで、デザインの新鮮さを損なわない効果があります。

「似たデザイン」からも保護してくれる権利です

強い効力を持つ権利だからこそ、登録は確実に!

意匠として登録されたデザインは、意匠権者が独占的に使用する権利が与えられます(期間は20年)。この権利の最大の特徴は、「意匠登録されたデザインと類似したデザインを、意匠侵害として排除することができる」というもの。つまり、「似ているものもNG!」ということを意味します。

せっかく生み出したデザインも、先に登録された「似ている」意匠が存在しては、「生み出したつもりになっていた」ことになりかねません。そんな状況にならないためにも、製品開発の早い段階で知的財産権に詳しい弁護士などの専門家と相談し、先に意匠登録されている製品がないかを確認することも重要です。意匠権は知的財産権の中でも強い効力を持つと言われる権利のひとつ。その力を最大限に活かし、有効に活用することで自社の権利を確実に保護しましょう。

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